動物愛護法の改正で数値規制に関する議論が白熱しています。
数値規制は犬・猫などを悪徳業者から保護するために大変重要なルールです。
この記事では数値規制を簡単におさらいするとともに、わたしたちニンゲンに置き換えた場合にどのようなシミュレーション結果になるかを検証しています。
この記事を読み終わる頃にはあなたの数値規制に対する見方が変わっているかもしれません。
それでは本編に続きます。
動物愛護法とは
動物愛護法(正式名称:動物の愛護及び管理に関する法律)は1973年に動物の愛護や保護、人間と動物が共存して豊かな社会を実現することを目的として制定されました。
1999年、2005年、2013年、そして2019年とこれまで4度の改正を経て今に至ります。
最新の法改正で盛り込まれた内容がこの記事でもお伝えする数値規制です。
動物愛護法の改正内容とポイントを詳しく解説している記事はこちらです。
■ 動物愛護法の改正|3つのポイントを超分かりやすく図解で説明します【 2020年版 】
昨今大変な注目を集めている【 動物愛護法 】の改正。 2019年に既に改正が終わっているにも関わらず、いまだこれほどまでに注目されている理由は何なのでしょうか。 この記事では動物愛護法とその改正内容について、日本一分かりやすい解[…]
改正された動物愛護法の運用開始時期について
2019年の法改正内容の大部分は2019年6月から既に施行されています。
しかし今回の改正内容で最重要ポイントとみなされている数値規制については、2020年6月から施行実施となります。
今回の法改正の適用は2019年6月から3年に渡り段階的に実施されます。
数値規制とは
それでは数値規制とは具体的にどのような内容の規制なのでしょうか。
数値規制はペットショップやブリーダーなどの動物取扱事業者に対して、主に犬や猫などの飼育環境や繁殖に関する取り決めを行うものです。
これまで全く取り決めがされていなかったわけではありませんが、表現があいまいであったため悪徳業者を取り締まることが事実上困難な内容でした。
そのため今回の改正で具体的な数値を規制内容に盛り込むことで、より実行力のあるルールにすることを目的として策定されています。
数値規制の詳しい内容やポイントについては以下の記事で詳しく解説しています。
■ 日本一分かりやすい【 数値規制 】|ペット先進国と比較しながら徹底解説します
2019年6月に動物愛護法が改正されました。 その中で最も話題に上る改正の内容、それが【 数値規制 】と呼ばれるものです。 数値規制はその名の通り、動物を守るための具体的な『数値』が設定されることになります。 一見すると動[…]
数値規制で注目されているポイント
非常に関心度の高い数値規制ですが、その中でも特に焦点とされているポイント2つあります。
① 飼育環境に関する基準
数値規制の重要なポイントの1つ目が、飼育環境に関する基準です。
これまでのルールだと具体的な飼養に関するスペースの定義がなかったため、せまいところに閉じ込められた繁殖犬・繁殖猫を救う手立てがありませんでした。
今回の規制ではペット先進国と言われる欧米諸国に近い水準を目標に、犬・猫の飼育環境に関する数値の設定が検討されています。
色々とパターンがあるのですが、この記事では代表的なケースをご紹介します。
その指標がこちらです。
縦: 体長の2倍
横: 体長の1.5倍
高さ: 体高の2倍【 猫の場合 】
縦: 体長の2倍
横: 体長の1.5倍
高さ: 体高の3倍
2020年9月現在はこのような取り決めになっています。
② 出産年齢と出産回数に関する基準
続いて数値規制の重要なポイントの2つ目が出産年齢と出産回数に関する基準です。
犬の場合は6歳までに最大6回までの出産が上限として設定されました。
【 出産年齢と出産回数の上限 】
犬の場合:6歳&6回まで
猫の場合:6歳まで
猫の場合は回数の制限が設けられていません。
この点も動物愛護家から反対の声が上がっています。
メス犬が6歳までに6回出産した場合は概ねこのような出産のパターンが予想されます。
犬の場合は生後半年~8ヶ月のあたりで初めての発情期が訪れます。
1歳未満の出産は、出産頭数も少なくなる傾向があるため、大抵は1歳を過ぎてから初めての繁殖になります。
犬(猫も同様)の場合は1年に2回発情期が訪れ、妊娠から出産までは2ヶ月程度となります。
そのため、6歳までに6回出産するとなると、実質1歳から6歳までの5年間で6回出産することになります。
つまりそれは、毎年出産を繰り返し、且つ5年間のうち一度1年に2回出産する年があることを意味します。
さて、改正された数値規制でも十分に動物たちの健康を守れると言えるでしょうか。
数値規制をヒトに適用した場合①: 飼育環境(生活スペース)
これまで数値規制の特に重要なポイントを2つご紹介しました。
そのポイントを人間に当てはめてみた場合、どのような結果になるかシミュレーションしてみます。
まずは飼育スペースです。
数値規制を人間用に変換するために、まずは犬・猫の体長と体高をヒトに当てはめてみます。
まずは犬・猫の『体長』ですが、これは人間で言うところの『身長』に該当すると考えても自然だと思います。
次に『体高』です。
犬における体高は足先から背中までの縦の高さを表しますが、人間にぴったりと置き換える指標がありません。
肩幅や胸囲とも少し違う感じがするので、今回は『座高』に置き換えることにしました。
『座高』はイスに座った時のお尻から頭までの高さです。
このルールで身長160cm、座高85cmの女性を『ヒト』のモデルに設定しました。
では、犬の場合の数値規制をヒトに置き換えた場合、どのような計算結果になるでしょうか。
犬代表の比較対象としては、標準サイズのミニチュア・ダックスフンドにしています。
結果がこちらです。
【 犬の場合: 体長 30cm、体高 20cm 】
縦: 体長の2倍(60cm)
横: 体長の1.5倍(45cm)
高さ: 体高の2倍(40cm)
【 ヒトの場合: 身長 160cm、座高 85cm)
縦: 身長の2倍(320cm)
横: 身長の1.5倍(240cm)
高さ: 座高の2倍(170cm)
数字だけだとまだイメージが湧きにくいかもしれないので、部屋の広さに換算してみます。
すると大体たたみ約4.6畳分というスペースであることが分かります(高さは170cm)
3.2m(320cm) × 2.4m(240cm) =7.68㎡(数値規制で算出された面積)
たたみ一畳(縦: 182cm 横: 91cm)あたり面積 = 1.65㎡
7.68㎡ ÷ 1.65㎡ = 約4.6
つまりたたみ4.6畳分のスペースということになる
つまり、身長160cmのヒトが数値規制の最低値のルールに基づいて生活するとなると、たたみ約4.6枚分のスペースで生活することになります(トイレスペース込み)
これはつまり、四畳半のワンルーム空間で毎日生活すると言い換えることができるでしょう。
さて、数値規制のイメージが少し沸いてきたでしょうか。
みなさんなら毎日のほとんどの時間を四畳半ワンルームで何年も過ごすことができるでしょうか。
数値規制をヒトに適用した場合②: 出産回数と出産年齢
続いては出産回数と出産年齢について、数値規制をヒトに当てはめてみたいと思います。
まず先ほどの例のように、犬の場合であれば6歳までに最大6回の出産が上限値として認められるようになりました。
ちなみに犬・猫の6歳は人間でいうと何歳でしょうか。
こちらは犬・猫の年齢をヒトに読み替えた場合の表です。
・ 犬(大型犬)の6歳は人間の47歳
・ 猫の6歳は人間の40歳
犬や猫のように毎年連続して妊娠と出産を繰り返す計算にはなりませんが、40年間四畳半のワンルームで生活することが前提になっています。
数値規制を適用されたヒトの生活はどうなる?
いかがでしたでしょうか。
今回の法改正の目玉となる数値規制の中でも、特に注目されているポイントについて、私たち人間に置き換えた場合のシミュレーションを行いました。
シミュレーションの結果を端的にまとめるとこう言えるのではないでしょうか。
【 数値規制 ヒトにあてはめたら 】
・ 4畳半のワンルームで
・ 40歳までずっと生活
・ その間6回出産する
みなさんはこのシミュレーション結果が自分の人生だったら、
数値規制(動物愛護法改正)をニンゲンに置き換えてみた まとめ
数値規制そのものやブリーダーさん全体を非難するわけではありません
この記事でお伝えしたいことは数値規制に問題があるということでも、ブリーダーという職業を否定しているわけではありません。
数値規制の設定は日本のペットを取り巻く環境の改善や動物虐待を防止するための大きな一歩として、当サイトでは肯定的に捉えています。
もちろん規制は最低限守る必要があるルールであるため、この記事よりもより広く快適なスペースを繁殖環境として用意したり、4歳までで繁殖犬としては引退させておげることだってできるのです。
問題は悪徳ブリーダーや悪徳ペットショップにあります。
数値規制をめぐる議論は環境省を中心に、様々な団体や一般市民も盛んに行われています。
もちろん完璧なルールは存在しません。
今回の記事のように数値規制を人間に当てはめた場合、心行くまで楽しい生活が送れるかと言われると『そうです』とは言い切れません。
犬や猫を飼育するためにはブリーダーさんの存在があってこそ成り立つケースもあり、そこで繁殖犬・繁殖猫としてのお役目を果たしてくれている命たちの存在があります。
こうした繁殖犬・繁殖猫や、子犬・子猫として人の手に渡る彼らが少しでもよい条件で生活することができることをただただ願うばかりです。
悪徳業者はルールを守らず善良なブリーダーは廃業するという意見
撲滅すべきはパピーミル(子犬製造工場)と言われる悪質なブリーダー、及びそれらと手を組むペットショップの存在です。
こうした法律が強化されたとしても、守らない業者は守らないでしょう。
ルールには抜け穴もあります。
一番苦しいのは善意を持ってブリーダー業をされていても数値規制のルールを順守することが厳しい経営者の方たちです。
数値規制に合わせるためのケージを揃えるだけでも、何十万も掛かります。
他にも数値規制では飼育担当者一人当たりが世話することができる犬・猫の頭数が定められていたりします。
こうしたを確実に守ろうとすると、コストを増やしたり売上げを減らしたりせねばならない経営者が多数いることは容易に想像できます。
動物を保護するという大義名分だけでは成り立たない部分もあり、全ての人々が幸せになれる環境を実現することは不可能に近いでしょう。
それでも少しずつ状況をよくしていくためには、わたしたち個人一人ひとりの意識の変化が大切です。
日本は異常なほど生体販売を生業としたペットショップが多いということは有名な話ですが、ではそれをなくせばよいという意見もあります。
これほどまでに殺処分が繰り返されているのに、生体販売をしていることに憤りを感じている人も多いでしょう。
しかしペットショップをなくせば全ての問題が解決するわけではありません。
わたしたちは個人の力は小さくても、一人一人が思いやりと愛を持ってできることを実践していくことが、ひいては日本に住むペット全体の幸福につながると当サイトは信じています。
犬や猫を飼っていなくても、金銭や物資の寄付ができます。
犬や猫を迎え入れる場合は保護犬・保護猫の受入れを検討してみてはいかがでしょうか。
夢や理想を語るだけでは何一つよくなることはありません。
まずは一人ひとりができることから始めていくことが、ペットと人間がよりよく共生できる社会の実現につながるのではないでしょうか。
動物愛護に関する記事は他にもこのような記事があります。
■ 動物愛護週間とは|#動物愛護週間に愛を叫ぼう
動物愛護法という法律名を聞いたことがある人は多いと思いますが、動物愛護週間というものをご存知でしょうか。 【 動物愛護週間 】は動物愛護法に基づいて制定された、文字通り動物愛護のための週間なのです。 動物愛護週間とはいったいどの[…]