2019年6月に動物愛護法が改正されました。
今回の改正では動物虐待を防止する観点から様々な改変が行われましたが、中でも注目されている規制の1つが今回の記事で紹介する【 8週齢規制 】です。
8週齢規制は犬・猫の健全な成長のためにはとても大切なルールです。
一方で不可解な理由から例外対象となる犬種も存在します。
この記事では8週齢規制の目的や問題点に注目した動物愛護法の改正内容についてお伝えします。
動物愛護法とは
動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)は1973年に人間と動物の共生による豊かな社会の実現を目指して制定されました。
動物の愛護及び虐待防止を趣旨としてこれまで4回法律が改定されています。
最新の改定は2019年6月です。
今回の改正では様々な規制が強化あるいは新設されました。
動物愛護法の改正内容の運用開始時期について
最新の法改正は2019年6月19日に公布されました。
改正法の適用は公布から3年に渡り、『段階的に』行われることになります。
既に2020年6月にほとんどの改正内容が適用になりました。
本記事で集中的に解説する【 8週齢規制 】の運用開始時期は2021年6月からとなります。
動物愛護法|改正内容のポイント
今回の法改正の大きなポイントは以下の3つです。
いずれも動物の虐待に対する罰則の強化や動物の生活環境や健康を改善することを目論んだ内容になっています。
【 動物愛護法 改正のポイント 】
① 8週齢規制
② 虐待の罰則強化
③ 数値規制
本記事では改正の3つのポイントの1つ、【 8週齢規制 】を解説します。
ちなみに、動物愛護法の改正内容の全体に関してのポイントは、こちらの記事で詳しく解説しています。
■ 動物愛護法の改正|3つのポイントを超分かりやすく図解で説明します【 2020年版 】
昨今大変な注目を集めている【 動物愛護法 】の改正。 2019年に既に改正が終わっているにも関わらず、いまだこれほどまでに注目されている理由は何なのでしょうか。 この記事では動物愛護法とその改正内容について、日本一分かりやすい解[…]
8週齢規制【 第22条の5 】とは
8週齢規制【 第22条の5 】とは生後56日(8週間)に満たない犬・猫の販売を禁止する規制です。
【 8週齢規制とは 】
生後56日(8週間)に満たない犬・猫を販売を禁止する
8週齢規制の目的と期待される効果
8週齢規制は生後56日(8週間)に満たない犬・猫の販売を禁止するものです。
販売のためにブリーダーからペットショップに引き渡したり、店頭に展示することを含みます。
一体なぜ生後56日(8週間)に満たない犬・猫を販売してはならないのでしょうか。
その理由は犬・猫の心身の健全な成長を促すということに基づいています。
引いては犬・猫の問題行動を防ぎ、動物虐待を予防する効果も期待されています。
【 8週齢規制に期待される効果 】
① 子犬・子猫の問題行動の予防
② 衝動買いの抑制
③ 虐待の防止
8週齢規制に期待される効果①: 子犬・子猫の問題行動の予防
子犬や子猫が生まれてからすぐに親兄弟から引き離されると、人を噛んだり、他の動物とうまくコミュニケーションが取れない、体が弱く病気にかかりやすいなど、色々な問題を引き起こすことがあります。
これは子犬や子猫に必要な【 社会化 】の時期に親兄弟から十分な学びができなかったことが原因と言われています。
社会化とは一言で言うと、他の動物とうまくコミュニケーションが取れるようになることです。
子犬の社会化期は生後3週齢~16週齢、子猫は生後2週齢~7週齢と言われています。
この時期に親兄弟と過ごすことで、母親からお乳の飲み方を教わったり、兄弟たちとじゃれたりすることで遊び方や力加減など、様々なコミュニケーションの取り方を学びます。
犬だけでなく、ブリーダーなどの人間や、周囲の生活音や生活空間に慣れることも大切です。
生後すぐにペットショップのケージの中で白色電灯の下で展示されてしまうと、健全な成長のために必要な経験ができなくなってしまい、心身ともに健全な成長ができなくなってしまいます。
また、子犬や子猫は母親のお乳で育てられることにより、成長のために必要な栄養バランス、免疫などを身に付けることができます。
つまり健康な体に育ち、感染症などの病気にかかるリスクも減ると考えられています。
社会化の時期は子犬・子猫の心身を健全に成長させ、その後人間や他の動物と良い関係で生活しやすくなるために大変重要な期間です。
十分な社会化ができれば問題行動の予防につながり、結果新しい飼い主ともよい関係が気付きやすくなります。
8週齢規制に期待される効果②: 衝動買いの抑制
ペットを飼いたいと願う飼い主、特に初めて子犬や子猫を迎えようとしている人たちの心境としては、できるだけ若くて体も小さな子を迎えたいと考える傾向があるでしょう。
一方でブリーダーやペットショップの関係者も、なるべく犬・猫が若いうちに販売したいと思っているはずです。
特に心無いペット業者は子犬・子猫が売れ残ると体も成長するため益々売れにくくなるということをどうしても避けたいと考えています。
子犬・子猫もすぐに買い手が見つかる子とそうでない子が存在します。
ですからできるだけ若い子犬や子猫を販売して、早く売り切ろうとするはずです。
飼い主になる人の中には、衝動的に勢いで買ってしまう人も残念ですが一定割合存在します。
生後間もないような子犬や子猫を衝動的に買ってしまった後に、その子たちが予想以上に大きくなったり、想像していた容姿(カラーなど)に育たなかった場合、あっさりと手放すことを考えてしまうような冷酷な人も少なからず存在するのです。
8週齢規制はこうした潜在的な衝動買いの機会を抑制することにもつながります。
8週齢規制に期待される効果③: 虐待の防止
子犬・子猫の社会化がしっかりと促されれば、問題行動の予防や病気などのリスクを減らすことができます。
また、単に小さいから可愛いという理由だけで、衝動的に引き取られる機会も多少は減るでしょう。
飼い主の立場としても、子犬や子猫がいつも噛みついたり吠えたりといった問題行動が多く、体も極端に弱ければ持て余してしまう人も出てきます。
人間や他の動物とも上手にコミュニケーションが取ることができれば、飼い主も子犬・子猫もお互いによい関係が築けるでしょう。
飼い主がペットの問題行動に悩まされる場合は、虐待につながる可能性があります。
虐待とは、積極的に危害を加えるというだけではなく、消極的な行動(ネグレクトなど)も含みます。
参考までに環境省の提起している虐待の定義はこのようなものです。
問題行動や病気のリスクが減らされることで、結果的に虐待が発生する機会が少なくなることが期待されています。
動物虐待とは、動物を傷つけたり、殺したりすることだけではありません。
無視をしたり世話をせずに放置することも立派な虐待です。
飼い主は今一度自分が知らぬ間に虐待行為を行っていないか、振り返ってみてほしいです。
改正前の動物愛護法でも8週齢規制は存在していた
改正前のナゾの規定
ここからは8週齢規制にまつわるナゾについてご紹介します。
2019年6月の動物愛護法の改正で。8週齢規制が初めて定義されたと思っている方が多いでしょう。
しかし、それ以前の改正前の旧法率でも8週齢規制は定義されていました。
それがこの条文です。
犬猫等の繁殖業者による出生後56日を経過しない犬猫の販売のための引渡し(販売業者等に対するものを含む。)・展示の禁止(第22条の5関係) なお、「56日」について、施行後3年間は「45日」と、その後別に法律で定める日までの間は「49日」と読み替える(附則第7条関係)。
確かに条文の冒頭に「56日」と記載があります(第22条の5)
ですが、よく見るととても変な内容です。
法律の施行後3年間は「45日」、その後別に法律で定める日までの間は「49日」と読み替える(附則第7条)
つまり、本則で56日と定義しておきながら、附則で45日や49日と【 打ち消して 】いるのです。
いびつな理由が隠されているとしか考えられません。
附則により生後49日(7週齢)を超えれば販売ができるため、現段階ではブリーダーはペットショップに対し、生後50日で子犬・子猫を引き渡しているのが実態です。
ペットショップ大手『コジマ』の8週齢規制の先取り
法改正後の8週齢規制の運用開始は2021年6月です。
ですから2020年の現時点では8週齢規制は適用前の状態です。
しかし2019年1月にペットショップの大手『コジマ』から、衝撃の発表がありました。
そのプレスリリース(一部抜粋)がこちらです。
つまり8週齢規制を先取りして、生後56日を過ぎた子犬・子猫を販売すると宣言したのです。
プレスリリースでは、生後8週齢を迎えるまで獣医師や販売スタッフによる検査・生育を行い、重篤な遺伝子病や感染リスクの少ない子犬・子猫を販売することが説明されています。
コジマ社の生後8週齢以降でのお迎えについてというページにも8週齢規制を先取りする目的が記載されています。
業界大手の会社が法律の適用前にこうした経営方針に舵を切ることは、これからのペット業界の未来を占うという意味でも明るい兆しを感じます。
8週齢規制で日本犬が除外されるナゾ
というわけで過去の経緯も含めて色々とある8週齢にまつわる規制ですが、2021年の6月から適用開始が正式に決まっています。
この規制の制定にはペット業界側からの猛烈な反発があったため、適用の開始時期も2021年となっているようです。
とはいえ、よかった、一安心、と言いたいところですが、この期に及んで例外規定が検討されています。
その内容がこちらです。
天然記念物の日本犬6種は8週齢規制の対象外とする
- 柴犬
- 秋田犬
- 紀州犬
- 甲斐犬
- 四国犬
- 北海道犬
8週齢規制の適用対象外とする理由は『天然記念物の保存』です。
全くもって意味不明です。
秋田犬保存会の遠藤 敬会長(日本維新の会 衆議院議員)と日本犬保存会の岸 信夫会長(自民党 衆議院議員)の8週齢規制への猛反発が原因で、日本犬6種だけは対象から除くことになりました。
これは今まで全く議論をされてきていなかったことであり、にわかに浮上したこの案に対しては動物愛護団体を中心に取消しを行う署名運動などの反対活動が活発化しています。
天然記念物に指定されている日本犬6種はペットショップでは販売されないという点も、規制対象外とする理由だと説明されているようです。
しかし、天然記念物を保護する観点で考えると、8週齢規制を適用した方が社会化も促され、免疫力の向上や感染症のリスクも下げることができるため積極的に適用すべきと言えるのではないでしょうか。
みなさんはどのように感じますか。
諸外国の規制について
元々ペット先進国である海外諸国並みに水準を引き上げることを目的として制定された日本の8週齢規制ですが、海外の先進国の規制内容はどのようなものでしょうか。
こちらに主なペット先進国の犬・猫の販売開始時期に関する規制をまとめました。
生後8週間未満の犬・猫の販売禁止(販売目的の輸送も禁止)【 イギリス 】
生後8週間未満の犬の販売禁止
【 ドイツ 】
8週齢未満の子犬を母犬から引き離してはならない
【 フランス 】
生後8週間未満の犬・猫の販売禁止
【 オーストラリア 】
生後8週間未満の犬・猫の販売禁止
8週齢規制(動物愛護法)とは|目的や問題点をズバッと解説します まとめ
今回は動物愛護法の改正点でも大変注目度の高い【 8週齢規制 】をご紹介しました。
8週齢規制の一番の目的は、子犬・子猫の社会化と健康です。
子犬や子猫が健康で、人間や他の動物とも安定的に接することができれば、人間もペットも双方にとってハッピーです。
今回の法改正は一部の例外的な取り扱いはあるものの、そうした環境を整えるための大きな一歩だといえるでしょう。
というわけで本記事のまとめです。
・ 規制の目的は、犬・猫の社会化です
・ 天然記念物に指定されている日本犬6種は規制対象外となっています