犬も人間と同様認知症にかかります。
このことは最近では広く知られていますが、犬の平均寿命も延びる一方で高齢犬の認知症に悩む飼い主さんも増えています。
ネットで検索すると、【 犬 認知症 安楽死 】というような背筋が寒くなるようなキーワード予測が出てきます。
それだけ愛犬の認知症と向き合うことが大変だということです。
愛犬が認知症になったからといって、安易な気持ちで安楽死させようという飼い主さんはいません。
認知症は完全には治りませんが、進行を抑えることは可能です。
この記事では認知症の予防方法や介護の仕方などをご紹介します。
犬の老化のサインと認知症
認知症は主に高齢の犬に認められる病気です。
まずはシニア犬と呼ばれる時期ですが、大型犬では7歳あたり、中型犬・小型犬では9歳あたりです。
シニアと言っても全くそうは見えない子もいて、犬種や個体差はありますが大体の目安だと思って下さい。
老化のサインは大きく二種類あります。
一つは身体的な変化です。
白髪が増えたり目が白くなってきた、体が痩せてきたなどの見た目の変化で、私たち人間と同じです。
もう一つは行動の変化で、足元がおぼつかない、物にぶつかったりトイレを失敗する、一日の中で寝る時間が多くなったなどの変化があります。
犬の認知症も人間のアルツハイマー型認知症に似た症状が見られます。
アルツハイマー型認知症の原因は、脳にβ-アミロイドというたんぱく質が蓄積することで老人斑が形成され、脳の機能を低下させることが原因と考えられています。
しかし詳しいことはまだ解明されていません。
人間のアルツハイマー型認知症は、β-アミロイドの蓄積による老人斑以外に、リン酸タウという異常タンパク質の蓄積や脳の萎縮が見られます。
しかし、犬の脳にはそれらの症状が見られず、アルツハイマー型の前段階と考えられています。
犬の認知症は10歳を超える頃から始まることが多く、13歳位からグッと増えてきます。
大型犬では8歳、中型犬や小型犬などは10歳あたりから予防と対策をした方がよいでしょう。
犬の認知症: 認知症の症状について
以前より犬も長寿化し、それと同時に認知症になるケースが増えてきました。
では、認知症の疑いがある症状はどのようなものでしょうか。
【 認知症の疑いがある症状 】
・意味もなく単調な声で鳴く
・昼夜逆転した生活になる
・夜鳴きをする
・前にのみとぼとぼと歩く
・狭いところ(壁の隙間や机の下など)にもぐりこみ、出られなくなる
・右旋回、もしくは左旋回のみを繰り返す
・名前を呼ばれても無反応、飼い主が来ても喜ばない
・食事を何度も欲しがる
・直角のコーナーで方向転換ができない
・学習したことをわすれてしまう
・おもらしなど、トイレの失敗が多くなった
犬の認知症: 有効な治療薬は存在するか
犬の認知症は人間の認知症と同じく、原因が完璧に解明されていません。
また、認知症を完全に治癒する治療薬は存在しないと言われています。
アメリカではセレギニンが犬の認知症治療薬として認可・使用されています。
また、イギリスではニセルゴリンが犬の認知症治療薬として使用されています。
日本国内では犬の認知症の治療薬として認可された薬剤はありません。
しかしながら、【 認可外処方 】という形でこれらの薬を処方する動物病院もあります。
犬の認知症の治療方針や治療方法は、愛犬の認知症の進行の程度や動物病院の治療に対する考え方など様々な要因で決まってくるため、セカンドオピニオンも含めて信頼できる獣医師に相談することが大切です。
犬の認知症: サプリメントや漢方薬の有効性について
犬の認知症を完全に治す薬はないとお伝えしましたが、悲観することはありません。
愛犬のために様々な可能性を検討、試してみましょう。
DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)の入ったサプリメントやフードを与えることにより症状が改善することがあるようです。
また、犬の体調や症状によっては効果がかなり期待できる漢方薬があります。
犬の認知症: 予防方法
認知症の予防や症状を遅らせる対策は、【 日々の生活に刺激を与えること 】が一番だと言われています。
これは犬に限ったことではなく、私たち人間もどうようです。
認知症の原因は完全に究明されていませんが、犬にも人間と同じアルツハイマー症に近い脳の変化が見られることが判明しています。
認知症で一番やってはいけないことは【 放置 】することです。
認知症は放置することで症状が進んでしまいます。
しかし、毎日の生活を工夫することで認知症の発症を予防したり、症状の進行を遅らせることはある程度コントロールできると言われています。
犬の認知症の予防方法①: 日光浴をさせる
日光浴をさせることで体内時計がリセットされます。
体内時計が整うことで脳のリズムが整うことにつながります。
犬の認知症の予防方法②: 昼寝をさせないようにする
認知症の症状の一つに挙げられるのは『昼夜逆転』現象です。
なるべく昼間には愛犬を起こしておいて適度に体を動かしてあげましょう。
おもちゃで遊んだり、名前を呼んであげると効果的です。
犬の認知症の予防方法③: 適度な運動をさせる
健康な体の状態を維持することは認知症の進行を遅らせることに大いに貢献してくれます。
散歩などで筋力を維持するとともに、外の音やニオイなどの刺激、他の犬たちとの交流はとてもよい刺激になるはずです。
散歩のコースも毎日同じではなく、ルートを少し変えたり時間帯を変えてみるなどの刺激を与えてあげましょう。
犬の認知症の予防方法④: 生活環境を整える
高齢の体に負担を掛けないように、愛犬が部屋の中を負担なく歩き回れるような環境を整えることも重要です。
滑りにくい材質の床にしたり、部屋の角や家具の隙間を保護することが大切です。
認知症の犬はバックして戻ることが困難であることが多いので、スキマに入り込んで出られないようなことのないようにしてあげて下さい。
犬の認知症の予防方法⑤: サプリメントで補強する
DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの不飽和脂肪酸が、犬の夜鳴きや徘徊などの認知症の症状の改善に効果があるとされています。
不飽和脂肪酸は青魚に多く含まれています。
サプリメントや週に数回の青魚を使った食事などで、認知症の予防や症状緩和の対策をしましょう。
犬の認知症の予防方法⑥: 抗酸化物質を含んだ食事で補強する
体内で発生する活性酸素は、神経細胞を傷つけ、脳の機能を低下させる原因になると言われています。
そのため、抗酸化物質を摂取することで認知症の予防につながると考えられています。
β―カロチン、ビタミンC、ビタミンEなどを含んだ野菜や果物を食生活に取り入れることで、これらの効果が期待できます。
このように、毎日の生活を工夫することで、認知症の予防や症状の進行を遅らせることができます。
犬の認知症: 認知症の愛犬を上手に介護するためには
人間と同様、犬も認知症になると家族には少なからず負担が掛かることになります。
家族が協力して認知症になった愛犬のお世話をすることが一番ですが、少しでも介護を楽にするための方法をお伝えします。
認知症の介護方法①: 犬用おむつでおもらし対策をする
認知症の症状として、トイレの失敗回数が増えることが挙げられます。
特に寝たきりの子になると、おもらしすることで皮膚がかぶれて皮膚炎などになることもあるため、犬用のおむつを使用することで防ぐことができます。
認知症の介護方法②: 円形サークルを活用する
認知症の犬は狭いスキマに入り込んでバックで出られなくなり、鳴き続けることがあります。
また、同じところをクルクルと何度も回ることもあります。
そうした愛犬の行動には円形型のサークルがオススメです。
サークルの中であれば好きなだけクルクル回れますし、スキマや角もないため袋小路になったりケガをすることもありません。
認知症の介護方法③: 歩行補助器具を使って移動をサポートする
愛犬の足元がおぼつかなくなった時は、飼い主さんが移動をサポートしてあげなくてはいけません。
特に大型犬の場合は飼い主さんの負担も大きいため、少しでも楽に歩行を補助してあげるにはこのような補助道具を利用すると便利です。
認知症の介護方法④: 食事量を小分けにする
認知症の犬は、異常は食欲を示すことがあります。
食事をしてもすぐに欲しがるので、何度も食事を与えると肥満になり、体への負担も大きくなってしまいます。
食欲が旺盛な子には、一日の総食事量は変えずに、食事回数だけ増やすという工夫をしてみて下さい。
認知症の介護方法⑤: 関節を痛がる子にはマッサージやサプリメントを
足の関節を痛がる子にはマッサージしてあげて気を紛らわせたり、コンドロイチンなどが含まれた関節の痛みに効果があるとされるサプリメントを与えてあげましょう。
マッサージは愛犬が嫌がるのであれば無理にする必要はなく、優しく体を撫でてあげるだけでも愛犬の気がまぎれます。
認知症の介護方法⑥: 床ずれを防ぐ環境づくり
認知症で愛犬が寝たきりになると、床ずれが発生してしまいます。
床ずれがひどくなると、そこから細菌が侵入して別の病気に発展することがあるため注意が必要です。
愛犬のベッドはやわらかい素材で整えてあげて下さい。
また、梱包材などに使われるプチプチのシートを敷くことで体重が分散され、床ずれ防止には効果的です。
とはいえ定期的に体の向きは変えてあげることが重要です。
認知症の介護方法⑦: 獣医師に相談する
かかりつけの獣医師はあなたの愛犬のことを医学的な見地から最も理解している人です。
これまでの病状や経緯を踏まえて、適切な治療や介護の方法についてアドバイスしてくれるでしょう。
愛犬の介護も独断で行うことは精神的にも肉体的にも辛いものがあります。
一人で抱え込まずに、専門家に相談することで認知症との向き合い方が改善される可能性があります。
犬の認知症: 認知症になりやすい犬種
認知症になりやすい犬種としては、柴犬や秋田犬などの日本犬が多いとされています。
日本犬系の認知症の犬を調べたところ、血中の不飽和脂肪酸量が著しく低下しているというデータがあるようです。
日本犬は魚を中心とした食生活の歴史があるので、青魚に良く含まれている不飽和脂肪酸を多く必要とする体質になっていると言われています。
昨今ではお肉が主体のドッグフードで育つ日本犬が増えてきているため、不飽和脂肪酸の摂取量が激減したことが認知症の好発犬種と言われる理由であると考えられています。
また、日本犬だけに限らず、屋外で飼育されている犬も、室内犬のように人間と触れ合う機会が減るため認知症の発生率が高いと言われることがあります。
さらに13歳を超える年齢になると認知症の発症確率が大幅に増加することも分かっています。
犬の認知症: 安楽死について
インターネットでも認知症にかかった愛犬の安楽死を真剣に考えている人が多いことに驚きます。
認知症は愛犬にとっても飼い主にとっても辛いものです。
特に10歳程度から認知症の症状が現れると、一緒に生活してまだ10年程度ですから精神的に現実を受け入れることができないという話もよく耳にします。
認知症の介護を協力してくれる家族もおらず、あまりの介護負担の大きさに一人で途方に暮れる飼い主の方がいることも理解できます。
安楽死という選択肢が頭をよぎるほどの精神状態になってしまうことは、決して罪ではないと思います。
それだけこれまで真摯に愛犬の認知症に向き合ってきたからこそ、安楽死というキーワードが脳裏をよぎるのでしょう。
まず大切なのは飼い主さん自身が自分を見失わないこと、一人で抱え込まないことです。
家族や友人、獣医師などに正直に現状を打ち明けるだけでも状況が変わる可能性があります。
冷静になるために、まずは一度落ち着くことが大切です。
デイケアなどに預けることで日頃の負担を減らし、自分を見つめなおす時間にも充てることができます。
デイケアの職員の方からもアドバイスが頂けるかもしれません。
また、何よりもペットを飼うということは、最後のその時までそばにいて添い遂げることに他なりません。
初めて愛犬と出会った時のこと、これまでのたくさんの思い出を振り返ってみて下さい。
愛犬にとっては飼い主さんと一緒にいることが一番の幸せであり、どんな時でもそばにいたはずです。
愛犬が高齢になり、苦しそうにしていたり、夜泣きを繰り返したりするのを見るのは辛いことだと思います。
ですが、愛犬には飼い主さんであるあなたしかいないのです。
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いかがでしたでしょうか。
愛犬がまだ若いうちは、認知症になることなど考えたくもないと思いますが、私たち人間と同様に犬も認知症になる可能性があります。
認知症も軽度な症状と重度の症状とでは、家族に与える影響も大きく異なるため、早めの予防と進行を遅らせるための対応が重要です。
大切なのは毎日の生活に刺激を与えること、愛情を持っていつも接することです。
愛犬だって好き好んで認知症になる訳ではありません。
彼女・彼らの想いはただ一つ、【 飼い主さんのそばでずっと一緒に生きていく 】ことなのですから。
この記事では安楽死についても少し触れましたが、安楽死は本当に最後の手段です。
この記事が愛犬の病気で悩んでいる飼い主の方の少しでも役に立ちますように。
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